(社)日本山岳ガイド協会認定 山岳ガイド(ステージII)
ジャパンアルパインガイド組合(JAGU)所属
アルパインガイド
発言集
登山について、仲間について、リーダーについて、こんな風に考えています・・・。
『全力を尽くすことが必ずよい結果を生む』
『一冊の本が大げさでなく私の人生を変え、それからは全身全霊を傾けて
ヒマラヤを目指そうと決心した』
『高レベルの登山では、研ぎ澄まされた感性が危険から身を守り、体力に
裏打ちされた精神力が緊張感の維持を助ける』
『より困難な登山を目指しながらも、人命の尊重と仲間への配慮を決して
忘れてはならない』
『リーダーの資質は「強い情熱、揺るぎない信念、メンバーに対し規律を
求められること」』
『人間の弱さが垣間見られる長期の登山においては、各個人が課された役割を
十分に果たすこと、規律の必要性を理解していることがその基礎となる』
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全力を尽くすことが必ずよい結果を生む
後に世界最高峰エベレストに一緒に登頂することになる明大山岳部同期の大西宏との出会いは、まさに邂逅とも言うべきものでした。
僕自身高校まではごく普通の、特にこれといった才能があって山登りを始めたわけではありませんが、当時の未踏の最高峰ナムチャバルワで亡くなった大西の生き方というのは、常に全力を出し切って全力を尽くすことが良い結果を必ず生むんだという生き方でした。
僕はダメなものはダメだというようなところがあって、諦めが早い高校生でした。それが大西と出会ったことによって、全力を尽くすことが良い結果を必ず生むということを、山登りを通じて信ずることができるようになったんです。このことは僕自身の非常に大きな財産だと今思っています。
(平成8年國學院久我山高校三年生向け講演会「高みを目指して」、『久我山春秋』13号
P.120掲載)
一冊の本が大げさでなく私の人生を変え、それからは全身全霊を傾けてヒマラヤを目指そうと決心した
皆さんはアルピニズムという言葉を聞いたことがありますか?「より高く、より困難を目指す」という登山の根幹となる精神・思想を表す言葉です。当時高校生は原則として冬山に行くことは禁止されていましたが、OBの方々にその冬山に連れて行ってもらう機会があり、厳しい自然に触れ、私はそのアルピニズムという精神を何となく理解することができたんですね。そして、その頃出会った「処女峰アンナプルナ」というこの本が、大げさではなく私の人生を変えました。
これは、人類が初めて8000mを超える山の頂きに立った時のフランス隊の記録で、山の本としては珍しく世界中でベストセラーになっています。これを読んでヒマラヤに向った人は日本人だけではなく沢山いるんですが、私も例に漏れず本当に感動して「これしかない」すなわち、これから全身全霊を傾けてヒマラヤを目指そうと決心しました。
(2003年伊東市講演)
高レベルの登山では、研ぎ澄まされた感性が危険から身を守り、体力に裏打ちされた精神力が緊張感の維持を助ける
高いレベルの登山になればなるほど、危険から身を守る一番大きな要素というのは、人間の持つ感性だと思うんです。つまらないことで精神的に疲弊していたりなどということは絶対避けなければなりません。第六感といわれるような、自分が持つ感性の全てを研ぎ澄ました状態で行動していなかったら、自然に内在する危険を察知することはできませんし、ちょっとしたミスが命を奪うことになります。そう言った意味では、緊張感の持続がまず大前提で、それを僕は大学の山岳部で教えられました。技術や体力も山登りにおいてもちろん大切ですが、精神面で常に山の中で気を抜かないで緊張していられるか、その緊張感を持続する裏付けは体力なんですけど、それを徹底的に叩き込まれたのが明大山岳部での四年間だったような気がします。
(2001年雑誌『明治』「この人に聞く」の取材で、『明治』第10号P.17掲載)
より困難な登山を目指しながらも、人命の尊重と仲間への配慮を決して忘れてはならない
近年様々なスポーツに於いて従来では考えられ得もしなかった目覚しい成果が挙がっている。登山の世界でもそれは同様である。このことは確かに登山の進歩を示しているが、ただそこで留意すべき点は、およそ高度なスポーツは、人間能力の極限を追求しながらも、あくまでそれは人間のためのスポーツであり、決してスポーツのための人間であってはならないということだと思う。それを登山に即して考えた場合、具体的には昔から「ザイル仲間」という言葉で表現されてきた精神、すなわち、より困難な登山を目指しながらも、人命の尊重と仲間への配慮を決して忘れてはならないということである。このことは現在でも私の山登りにおける精神的根幹となっている。
(『体育会誌』’85 P.94)
リーダーの資質は「強い情熱、揺るぎない信念、メンバーに対し規律を求められること」
リーダーにとって必要な資質は何かと言う話ですが普通、統率力、責任感などという言葉が頭に浮かぶと思います。もちろんそれもあると思いますが、私は、1つには強い情熱があること、2つ目には揺るぎない信念を持っていること、そして3つ目は反発を恐れずに言えば、規律を求めることができることを挙げたいと思います。
規律と言うと大自然の中で自由に行う山登りのイメージからは相反するように聞こえ、またその言葉自体にアレルギーを覚える人もいるかもしれません。しかし、登山の特殊性は、細かくルールが決められている他のスポーツと違い、ルールは自分で決めなければならないところにあります。自分で決めるルールとは、何時に出発するとか、どのようなルートにどのような方法で登るかといったことです。それが守れなくなった時、計画と実際の間にずれが生じてしまいます。そしてその状態こそが登山において事故の起りやすい状況なのです。
自由と規律、相反するように聞こえる言葉でありますが、私は規律のある世界でこそ自由なパフォーマンスが尊重されるのだと思っています。
(2003年千葉県医師会講演)
人間の弱さが垣間見られる長期の登山においては、各個人が課された役割を十分に果たすこと、規律の必要性を理解していることがその基礎となる
私はチームワークという言葉を安易に使うことを好まないが、私が隊長として率いた明治大学アンナプルナI峰登山隊2003は、各個人が役割を充分に認識した上でそれを確実にこなすことができ、チームとして本当によく機能したと思う。さらにチームとして何かを行う場合必ず必要な規律という面でも各自その必要性を理解しており、細かいことでうるさく言うことも余りなかった。一般に難度の高いルートを登る場合、とかく技術レベルがどうかとか、誰が強いかといった点に留意しがちだが、特に今回のような人間の弱さが垣間見られる長期の登山において、それは上記のような基礎的な部分を確立してからのことであると今回再認識するに至った。この登山最大の危機であったキャンプ2の埋没にもめげず我々ががんばれたのは、あの気の遠くなるような現役時代の合宿のおかげであったと、今心からそう思っている。
(2003年文部科学省登山研修所発行誌『登山研修』寄稿「ドリームプロジェクト完結アンナプルナI峰明大隊」)